旅立ち

さあて皆様、いよいよ弥次喜多道中の始まり始まり、ごゆっくりとお楽しみください。

いざこのありがたい御代にこそ、国々の名山景勝の地を巡り歩いて、月代に塗る青黛ならむ聖代の御徳を、やかん頭になる年老いてからの茶呑み話のために蓄えておこ うと、二人の友だちが誘い合わせ、山鳥の尾のような、長々しい旅のことなれば、臍のあたりに打ち金の胴巻きに、ずっしりと路用の金をあたためて、花のお江戸を立ち出 たのは、神田の八丁掘あたりに住む妻を亡くして独り者、弥次郎兵衛と言うのらくら 者と居候の喜多八。
車は快適に出発
二人おそろいの、蛤のむき身しぼりの浴衣の袖を吹き送る神風のお伊勢参りから、花の都(京都)から梅の咲く浪花(大阪)へと心ざして神田の家から出か けたところ、早くも江戸もはずれの高輪の町に来かかる。

高輪へ来て忘れたることばかり
(江戸っ子が東海道の旅に出ると、たいてい高輪あたりで、あれこれ旅支度で忘れたことを思い出す)
 さいわい、我々には何ひとつ忘れた物も気がかりもなし。

心がかりは、酒屋と米屋の払いをそのままにして、だしぬけに旅立 つてしまったこと、さぞや恨んでいるだろう。



(それでは、私たち夫婦(平松)も、高輪の大木戸跡を後にして、出あい旅に出発。またお目にかかりましょう。)








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