この話の間に、三ヶ野橋を渡り、大久保の坂を越えて、早くも見付の宿(磐田市)にいたる。
喜多「アァくたびれた。馬にでも乗ろうか」
馬方「お前っち、馬ァいらしゃぃませぬか。わしどもは助郷役に出た馬だんで、早く帰りたい。安く行かずい。サァ乗らっしゃりまし」

 (助郷‥東海道の交通の確保のために、沿線の村々に幕府がかけた役務で、人馬の徴発を含めて重いものだった)

弥次「喜多八乗らねえか」
喜多「安くば乗るべい」
 と、馬の相談が出来て、喜多八はここから馬に乗る。

池田渡し公園


弥次「コレ馬子どん。ここに天竜川の渡しへの近道があるじゃアねえか」


馬子「アイそっから北の方へ上がらっしゃると、一里ばかしも近くおざるは」


喜多「馬は通らぬか」
馬子「インネ、歩行道でおざるよ」



と、ここから弥次郎は一人近道のほうにまがる。喜多八は馬で本道を行く。

ほどなく天竜川にいたる。

天竜川

この川は信州の諏訪の湖水から流れ出て、東の瀬を大天竜、西の瀬を小天竜と言う。舟渡しの大河である。

弥次郎は近道を歩いてここで喜多八を待ち受け、ともにこの渡しを越えるとて、一首。

 水上は雲より出て鱗ほど 浪の逆巻く天竜の川

  (水、雲、鱗、浪、逆巻く、みな竜の縁語の竜づくしが趣向)

舟からあがって立場の町にいたる。

ここは江戸へ六十里、京都へも六十里で、東海道の振り分けになるから中の町(浜松市)というそうだ。

 傾城の道中ならで草鞋がけ 茶屋に途絶えぬ中の町客

 (ここを江戸吉原の中の町に見立てて、花魁道中の高足駄の代わりに草鞋、吉原の引き手茶屋と街道道筋の茶屋、どちらも客が絶えぬと言う趣向)