弥次喜多の二人が、名物の蒲焼きを食べている前で侍と馬子が着いた。
茶屋女「お休みなさりまァし、お休みなさりまァし。コレ馬子どん、荷をお下ろし申 さっせえヨ」
茶屋女「お茶あがりまし」と、茶をくんでくる。

お侍は女の顔をじろりと見てから、茶碗を手にとり、
侍「モウ何ん時じゃろう」
茶屋女「九ツ半(午後一時)でもおざりましょ」
馬子「昨日の今時分じやろかい」
 と、馬子は古くさい洒落をいう。

侍「食事にいたそう。何ぞあるか」
茶屋女「おなぎ(鰻)の蒲焼きがおざります」
侍「なんじや、お内儀(ないぎ)の蒲焼きか」
馬子「ご亭主のすっぼん煮はないかな。ハ、、、、。
時に旦那さま。お荷物はこれに置きます。お小づけの荷はちょうど五ツ」

 (侍がうなぎの訛りのおなぎをお内儀〈主婦)と聞き間違えたので、馬子が亭主のすっぼん煮と洒落でまぜかえした。)

 (お小づけの荷物・・・空尻馬で五貫目までの規定の荷物以外の手荷物。これを五つもつければかなりの重量超過になっている)

カキの水揚げ(浜名湖)

侍「その貫ざしはこちらにたもれ」
 (貫ざし…銭千文を一貫という。一文銭なら千枚を縄に通した重いさしぜに)
馬子「ハイハイ、モシ旦那さま、ちとお願いがおざります。へ、、、、どうぞお酒を一杯食べとうおざります」
 (酒手をはずんで欲しい。酒を飲ましてほしいということ)

侍「ホウ、お身、酒が好きか」
馬子「ハイ飯よりは好きでおざります」
侍「遠慮のないことじゃ。勝手に飲みやれ。身どもも飲めるならば、ふるまうものを、かいもく下戸じゃから是非もない」

馬子「ハア旦那はお酒をあがらずとも、ハイどうぞ、いただきとうおざります」
侍「ハアわかった。お身は酒手をよこせというのじゃな。イヤまかりならんぞ。道中御定法の賃銭ども、あい払ってまかり通る。別に酒手なぞということは、決してならんことじゃ」

(酒手・・・人や荷物の駄賃以外に払う心付け、チツプ)

馬子「さようではおざけますが、どうぞそこを」
侍「イヤ、たってといわばつかわそうが、請取書きをしやれ。身とも帰国の節 問屋どもへあい届ける」

(馬子を雇っている問屋に、ねだられた酒手の領収書を届けるとおどかしたのである)

馬子「いったい、空尻のお荷物には重過ぎておりますから、どうぞご料簡なされまして」

(料簡する・・・理解する。勘弁する) 

侍「しからば、ソレ八銭もつかわそう」と、貫ざしから八文抜いてやる。

馬子「ハイせめて十六文下さりませ」
侍「しからば、身どもの一存をもって、いま四文つかわそう」と、銭四文ほうりだしてやる。

馬子はふしょうぶしょうに銭をとって馬を引いていく。