吉田宿を過ぎて、喜多八はここから駆け抜けて先へ行く。弥次郎は後からゆっくり行く。
まもなく御油の宿に入ったころは早くも夜になって、両側の宿から出て来る留め女たち、いずれも、お面をかぶったようにお白粉を塗りたてたのが、柚を引いてうるさい。
弥次郎もやっとのことでふり切って逃げて、一首、
その顔でとめだてなさば宿の名の 御油るされいと逃げて行かばや
(御油の飯盛女郎は醜いことになっていたらしい。そこで、その顔に白粉を塗り立てて誘っても勘弁してくれの意味。)
 
弥次郎兵衛はあんまりにくたびれたので、まずはずれの茶店に腰をかける。

やがて「松原のキツネ」の話を聞かされた弥次郎兵衛、茶代を置いて店を出る。
松並木にかかると暗さは暗し、薄気味は悪し。
化かされないまじないに、眉毛に、つばをつけながら行くと、はるか向こうに狐のなく啼く声、
狐「ケーン、ケーン」
弥次「ソリヤ鳴きやァがるは。おのれ狐め。出て見ろ。ぶち殺してくれよう」と、力みかえって道をたどって行く。
喜多八は先に急いで、ここまで来ていたが、これも狐が出るという話を聞いて、もしも化かされてはつまらぬと、ここで弥次郎を待ち合わせて、連れ立って行こうと思って、道端の土手に腰をかけて煙草をふかしていた。
弥次郎を見つけて、
喜多「オイオイ弥次さんか」
弥次「オヤ手めえ、なぜここにいる」
喜多「宿を取りに先へ行こうと思ったが、ここへは悪い狐が出るということだから、一緒に行こうと思って待ち合わせた」
弥次郎、こいつは狐めが化けたなと思い込んで、わざと弱みを見せないように力んで、
弥次「くそをくらえ。そんな手で化かされるものじやァねえ」
喜多「オヤおめえなにをいう。そして腹がへったろう。餅を買ってきたから食いなせえ」
弥次「馬鹿アぬかせ。馬糞が食らわれるもんか」
(狐に化されて、ボタ餅と思って馬糞を食わされるという、広く知られた俗説がある)

喜多「ハ、、、、、、これは俺だわな。狐じやねえわな」
弥次「俺だもすさまじい。喜多八にそっくりそのままだ。よくも化けやアがったな。畜生め」
喜多「アイタ、、、弥次さん、コリヤどうする」
弥次「どうもするもんか。ぶち殺すのだ」
 と、喜多八が油断したところを、ぐっと突き倒して、その上にのしかかって押さえつける。

喜多「あ痛ア、あ痛ア」
弥次「痛けりやア正体をあらわせ、あらわせ」
喜多「アレサ尻へ手をやってどうする」  
弥次「どうもするもんか。しつぽを出せ。出さずばこうする」
 と、三尺の手ぬぐいを解いて、喜多八の手を後ろへ回してしばりあげる。

喜多八はおかしくなって、逆らわずにわざとしばられていると、
弥次「サアサア、先へ立って歩け、歩け」
 と、しばり上げた喜多八を、後ろからつかまえて、追っ立て追っ立て、赤坂の宿に入る。