二人は赤阪宿に入る。弥次さんは宿に上がって、やっと喜多さんが本物とわかり一安心。
女中「お湯におめしなさりませ」
喜多「サアサア弥次さん、まず湯にでも入って、気を落ち着けるがいいよ」
弥次「畜生めが。くそつぼへ入れようと思っても、その手は食うものか」
(狐に化かされて、風呂と思ってくそつばや肥桶に入れられるというのも、広く知られた俗説)

亭主「ナニ、湯は清水でおざりますから、きれいでおざります。マアお出でなさりませ」
女中が茶をくんで来て、
女中「モシお淋しけりやア、女郎さんがたでもお呼びなさりませ」
弥次「ばかアいうな。石地蔵でも抱いて寝るこたアいやだ」
  (狐に化かされて、女と思って石地蔵を抱くというのも俗説)
女中「ホ、、、、、おかしなことをおっしやります」

亭主「時にお客さまへ申し上げます。今晩は私方に、すこし祝い事がおざりますから、御酒を一つあげましょう」
 といううちに、お勝手から酒肴を持ち出す。
弥次「おかまいなさるな。なんぞおめでたいことかの」
亭主「ハイわたくしの甥めに、嫁をもらいました。今晩婚礼をいたさせますから、おやかましゅうおざりましょう」
旅篭屋の天井

この間に、奥の座敷では謡の声。

謡曲「千代もかわらじ幾千代も、栄え栄うる松梅の、双葉の竹の世をこめて、老となるまでと結ぶぞ、楽しかりける」

皆々「めでたい、めでたい。三国一の嫁を取りました。シヤンシヤンシヤン」
 と、手を叩き叩きして、喜びの声がさざめいている。

 そのうちに、お勝手から女中が来て
女中「あなた方、もうお床を、とりましょうか」
喜多「コレ女中、祝言はもうすみやしたか。さだめて嫁御は美しかろう」
女中「アイサ、むこさまもよい男、嫁卸さまもえらい器量よしでおざります。お気の毒なことに、あちらの座敷に寝やしゃりますから、あなた方にも睦言が聞こえましょ」
喜多「こいつは大変、大変」
女中「もうお静まりなさいませ」
 と、出てゆく。

二人もそのまま寝かけると、はやふすま一重の隣座敷に、新婚のむこと嫁が寝る様子。
ひそひそと話をするのを聞けば、どうやら最初から、むこと恋仲だったらしく、ぶったりつねったりして、いちゃつく様子が、手に取るように聞こえ、弥次郎も喜多八も寝もやらず。

弥次「エ、とんだ目に合わしやアがる」
喜多「ホンニ悪い宿を取った。人の心も知らずに、なんだかおそろしく睦まじいな。畜生め」
弥次「サア話し声が止んだから、これからが難しい」
 と、だんだんに布団から乗り出して、隣の様子を聞き耳立てて、寝られないままに弥次郎はそっと起きて、ふすまの隙間からのぞいている。

睾多八も裸のまんまで、這い出してきて、
喜多「コレ弥次さん。嫁さんは美しいか。おいらにも、ちっと見せてくんな」
弥次「コリヤ静かにしや。これからが肝心のところだ」
喜多「ドレドレ見せねえ」
弥次「アレサ引っぱるな」
喜多「それでもちっと退きなせえ」
 と、弥次郎が夢中になってのぞいているのを、喜多八がのけようとして引っぱる。

弥次郎は退くまいと意地になってこらえていると、はずみにふすまがばったりと向こう側に倒れて、二人ともふすまの上に転げ出る。

むこも嫁も倒れたふすまの下敷きになって、胆をつぶして、
むこ「アイタ、アイタ、アイタ。コリヤど奴じゃい。なぜ唐紙を打ち壊した」
と、はね起きたところが、行灯もひっくり返って真っ暗闇。

弥次郎は素早く逃げて自分の寝床へ這い込む。

喜多八はまごまごして、むこにつかまって仕方なく
喜多「ご免なせえ。手水に行くつもりで、ツイ戸まどいをしやした。
ここの女中が悪い。夜に座敷の真ん中へ行灯を置くから、それにけつまづいてお気の毒さま。

アア小便が漏れそうだ。ちょつと行って来やしょう。ここをはなしてくんなせえ」
むこ「いやはや、あきれたお人たちじゃ。夜着も布団も油だらけになった。コリヤおさん、おさん、誰ぞ早うよこしてくれぬか」
 と、呼び立てる声に、お勝手から下女が火をともして来て、そこらを片付ける。
喜多八も、かっこうが悪いことで、外れた唐紙をはめ直して引き立てて、さんざん詫び言をいって退散する。
大騒ぎの夜もふけていき、双方静まって、ただいびきの声だけが高まっていった。