ほどなく池鯉鮒(ちりゅう)の駅にいたる。
弥次「いまいましい。わらじで足を痛めた。ちっとの間ぞうりで行こう。
モシモシこのわらぞうりはいくらだね」
亭主「アイアイ十六文でおます」
弥次「こいつは安い」
 ここの亭主は伊勢商人で商売上手である。
  (江戸には伊勢と近江の商人の出店が多くて商売上手とされていた)
  
木綿市の句碑(小林一茶)
                                          亭主「アイお安うおますわいな。わたしとこのぞうりは、ひゅつと丈夫で、根っから切れやいたしませぬ」
喜多「根からは切れめえが、先のほうから切れるだろう」
  (亭主が、容易に切れないの意味で〈根っから)といったのを、根からは切れなくても、先から切れるだろうと けちをつけた)

弥次「イヤこのぞうりはちんばだわえ。片っぽは大きくて、こっちは小さいようだ。
コリヤア 八文ヅツにしちやァ、大きなほうは安いが、小さなほうは高いものだ。ナントご亭主、片っぼの大きなほうを九文に買いやしょうから、小さいほうを七文に負けてくんなせえ」

亭主「アイようおます。おめしなされ」
弥次「南無三銭が足らない。一足買おうと思ったが、たった七文きりしかねえから、アノ小さい片っぽばかり買いやしょう」

亭主「さようでおざいます。一足おめしなされませ。どうも片一方だけ離しては、差し上げられませんわいな」

弥次「ナニ片っぽは売られねえか。さすがは田舎だけあって、ものごとが不自由だ」
喜多「ナニ江戸だって、ぞうりを片っぽだけ売る店があるもんか」

亭主「なんならこれになさりませ。これじゃと一足そろって、七文にしてあげましうわいな」
弥次「ナンダ馬の沓がはかれるものか。エ、人をじらすな」
 (馬の沓・・・馬のひずめを保護するために履かせる、藁で編んだ円形の小さい草鞋)

喜多「おめえ片っぽ買って、どうするつもりだ」
弥次「また先へ行って、もう片っぽを買おう」
 亭主が笑いながら、
「ハ、、、、。ご無理なさるな。ちゃんとそろったのを、14文に負けましょう、
一足おめしなされ」

弥次「きさま、とっくにそういえばいいのに」
と、ようやくのことでぞうりを買って、わらじを脱ぎ捨ててはきかえる。
      
こうして、この宿を過ぎて、早くも猿投大明神を伏し拝み、今岡村の立場にいたる。